(8)インボイス制度の開始にあたり、免税事業者が検討することはありますか?

Q インボイス制度の開始にあたって、免税事業者が検討することはありますか?

A 事業者を相手に販売・役務提供を行う免税事業者は、課税事業者を選択する等の対応が求められてくるでしょう。

1)課税事業者を選択するかの判断が迫られる
インボイス制度が導入されると、課税事業者にとっては、免税事業者との取引は自社の消費税負担が増える恐れがあるとされ、そのため免税事業者が取引社会から排除されてしまう可能性がいわれています。そこで、これまで消費税の免税事業者であった事業者においては、インボイス(適格請求書等)の交付ができる適格請求書発行事業者の登録を受けるかどうか、換言すると、取引先の求めに応じてインボイスの交付ができるよう、課税事業者となることを選択するかどうかの最終判断の時期が迫りつつあることも事実です。以下、免税事業者が置かれている状況や、この後にとるべき対応について検討してゆきましょう。
2)免税事業者が取引社会から排除されてしまう懸念とは?
 「免税事業者が取引社会から排除されかねない」との懸念が、どのような事柄においていわれているのかについて、以下の「事例検討」において解き明かしてみたいと思います。

<事例検討2;免税事業者で居続けると何が起こるか?>
仮に「卸売業者」が免税事業者であるとして、この卸売業者がインボイス制度の開始後も免税事業者で居続ける場合、インボイス制度の開始を境に、小売業者との取引を打ち切られてしまうとの懸念が生じる、その仕組みについて検証をしてみましょう。なお、理解を深めていただくために、ここでは後述する6年間の仕入税額控除に関する経過措置については計算に反映しないものとします。
(現行制度下)
小売業者では、取引に際して消費税7,000円を負担していますが、当該7,000円を仕入税額控除して申告納税をするので、卸売業者との本体取引価額(いわゆる仕入れコスト)は70,000円と認識できます。
(インボイス制度がはじまると)
小売業者では、取引に際して消費税相当額7,000円を負担していますが、卸売業者からインボイス(適格請求書等)の交付を受けることができないので、当該7,000円を仕入税額控除できません。そこで、本体取引価額は77,000円と認識することになります。
 こうした事態を受けて、小売業者も黙ってはいないケースが考えられます。いくつか想定できるのは、①卸売業者に対して、インボイスの交付ができるよう、課税事業者選択をともなう適格請求書発行事業者の登録を受けるよう要望してくる、②取引に際して消費税相当額7,000円の負担が少なくなるよう、取引対価の減額を持ちかけてくる、③これらの要望がかなわない場合、卸売業者との取引を打ち切り、インボイスの発行をしてくれる別の卸売業者との取引を模索する、などが挙げられます。
 そのうえで、小売業者の①の要望が反映された場合、取引対価は引き続き77,000円(税込価額)を維持できますが、卸売業者は課税事業者になることにより、あらたに納付税額2,000円(7,000円-5,000円)の申告と納税負担が生じます。その一方で、小売業者は、卸売業者からインボイスの交付を受けられますので、インボイス制度の導入後も消費税7,000円について仕入税額控除ができ、本体取引価額を70,000円で維持できます。
小売業者の②の意向が反映された場合、交渉により、たとえば本体取引価額は取引対価と同額の70,000円となり、小売業者は仕入税額控除ができなくとも負担増・コスト増は回避できますが、その一方で卸売業者は消費税相当額である7,000円の売上減・手取りの減少となります。
同じく、③のような事態になった場合、小売業者が、インボイスを交付してくれる別の卸売業者との間で取引対価77,000円(税込価額)で商取引が成立すれば、消費税7,000円の仕入税額控除ができ、引き続き本体取引価額を70,000円で維持できます。他方で、この卸売業者は取引の相手方を失うことになります(=免税事業者が取引から排除される事態)。
なお、取引の相手方の一方が免税事業者に対して、上記①もしくは②を強要することは、他の法律の適用関係も踏まえて、慎重に対応する必要があるものと考えられます。

2022/3/23 税理士小林俊道事務所