(20)買手がインボイスの記載不足項目を自ら追記することはできるか

 インボイス制度がはじまり関与先から一番多かった質問を、今回は取り上げます。売手から交付を受けた請求書等にインボイスの記載事項がない場合や誤りがある場合、買い手側で不足項目や正しい金額等を自ら追記や修正することは可能でしょうか。
 インボイスの記載事項としては、これまでの区分記載請求書等の記載事項に加えて、あらたに「登録番号」「適用税率」「適用税率ごとの税込又は税抜の取引価額」「適用税率ごとの消費税額等」の記載が求められます。ちなみに簡易インボイスの場合は、「登録番号」「適用税率ごとの税込又は税抜の取引価額」のほか「適用税率又は適用税率ごとの消費税額」の記載で足りることとされています。
 このうち、インボイス施行直後の請求書等には、登録番号の記載はあっても適用税率や消費税額等の記載がみられないケースが散見されるところです。登録番号さえ記載しておけば何とかなるだろうとの売り手側のもくろみでしょうが、これでは買い手側において正当なインボイスの交付を受けたと言えず、このままでは仕入税額控除ができません。また、「適用税率ごとの消費税額等の端数処理は、ひとつのインボイスにつき一回のみ」とのあらたなルールにも対応していない請求書等も数多く見られるところです。
 そこで買い手側が考えそうな苦肉の策が“買い手において自ら適用税率等の追記や消費税額等の修正をしてインボイスを完成させれば良いのではないか”というものです。この点、インボイス制度では「修正インボイス」なる概念を用意しており、本来こうした場面においては売り手側に対して修正インボイスの交付を求めるのが筋合いです。すなわち、買い手における不足項目の追記や消費税額等の記載の修正は認められないとするのが原則的な考えです。
 もっとも、買い手が売手に対して適用税率等の追記や修正をすることを電話等で照会し、お互いでその追記や修正をしたものをインボイスとすることで確認をし合うことによる場合には、買い手において自ら追記や修正をした請求書等をもってインボイスの交付を受けたものとすることも可能との見解が国税庁より示されています。
 こうした条件付きで“追記や修正を可能”とする国税庁の説明は“支払通知書を相手方に交付してその内容の承認を受けることで、インボイスの交付を受けたものとすることも可能”とする、支払通知書のルールを援用するというものです。修正インボイスの対応はとても煩雑ですので、かかる買手が自ら追記や修正をするとの方法は取引実務において現実的な方法です。
 ただ、こうした追記や修正の対応とて“インボイス残業”の原因になることは明らかであり、最初から記載要件を満たしたインボイスの交付をすることが、取引先の信頼を得るためにも重要なことと思います。

2023/12/29 税理士小林俊道事務所