4)マンション評価通達が発遣

 相続税・贈与税におけるマンションの評価については、相続税評価額と売買実例価額とが大きく乖離するケースが頻出し、こうした乖離を利用した“節税対策”が広く利用される実態が課税実務のまわりで問題化していました(令和4年最高裁判決をはじめとした総則6項適用問題)。こうした問題を是正するためのあらたな個別通達「居住用の区分所有財産の評価について」(法令解釈通達)が定められました。
 具体的には「居住用の区分所有財産」(いわゆる分譲マンションでタワマンに限定されるものではない)の相続税評価を、予測した市場価額の6割水準まで補正するもので、令和6年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産に適用されます。

(1)あらたな評価方法の概要

 あらたなマンション評価の方法は、①評価乖離率を求めた上で、②評価乖離率にもとづく評価水準の区分により、【1】一室の区分所有権等に係る敷地利用権と【2】区分所有権の各価額を補正してゆくというものです。

 そのうち、①評価乖離率の求め方は、A築年数、B総階数指数、C所在階、D敷地持分狭小度、の各指数を元に算出します。

A築年数・・・マンション建築時から課税時期までの期間をさす。

B総階数指数・・・総階数÷33で求める。階数に地下は含まない。

C所在階・・・メゾネットタイプのような2階にまたがるマンションの場合は低い階数を所在階とする。地下の場合は0階とする。

D敷地持分狭小度・・・評価対象一室の「敷地利用権の面積÷専有面積」で求めた値。

 また、②の評価水準は「1÷評価乖離率」、すなわち評価乖離率にもとづく評価水準の区分を設け(以下)、かかる評価水準の区分に応じて従前の評価額を適宜補正してゆくというものです。

・評価水準が1を超える場合
→区分所有補正率を評価乖離率とする

・評価水準が0.6~1の場合
→区分所有補正率を1とする(=補正せずに従来の評価額で評価)

・評価水準が0.6未満の場合
→区分所有補正率を「評価乖離率×0.6」とする

【1】一室の区分所有権等に係る敷地利用権(土地)の価額
あらたな自用地としての評価額=「従来の自用地としての評価額」×区分所有補正率

【2】一室の区分所有権に係る区分所有権(家屋)の価額
あらたな自用家屋としての評価額=「従来の自用家屋としての評価額」×区分所有補正率

(2)改正の影響

 これまでのマンション評価との比較としては、“築浅であるほど”“所在階が高いほど”“敷地に目いっぱいに立っている総戸数の多い”マンションほど、それぞれ評価額が高くなる傾向があります。
 他方で、貸家建付地や貸家など、現行の評価通達で配慮すべき一定の要素がある場合には、それらの評価通達を補正後のマンション評価額にも適用できます。また、要件を満たす場合には小規模宅地等の特例の適用を受けることも可能です。ちなみに、国税庁の解説によれば、一棟買いのマンションや商業ビル、二世帯住宅の区分所有物件はあらたな評価方法の対象外になるとのことです。
 また、今回の個別通達が目指したところは、予測した市場価額の6割水準まで補正をするものとしていることからすると、なお都心部のマンションは有効な相続税の節税対策となり得ることが予想できます。

(3)なお残る問題点や懸念事項

 タワマン節税の舞台とされるタワーマンションはその立地のほか、「眺望」「一室の向き」「採光」の良し悪しで一室の取引価額が決まってゆくとされていますが、あらたな評価方法ではこうした要素が織り込まれていません。たとえば霊峰富士山が眺望できる魅力で取引価額が高止まりしている場合には、あらたな評価方法は無力であるように思えるのですが、果たしてどうなるのでしょうか。
 そもそも今般のマンション評価通達は、前年度の令和5年度税制改正大綱で「現状を放置すればマンションの相続税評価額が個別に判断されることもあり、納税者の予見可能性を確保する必要もある」との指摘を受けて発遣されたものです。それにもかかわらず、国税庁はあらたな評価方法の公表にあたり「本通達及び評価通達の定める評価方法によって評価することが著しく不適当と認められる場合には、評価通達6が適用される」としており、取引価額と補正後の評価額になお乖離が生じており課税上弊害がある場合は、総則6項適用問題が再燃することが懸念されます。そうだとすると、こうしたマンション評価通達の発遣をもって納税者の予見可能性が確保されたとは言いがたい状況がなお続いているように思えます。
 また、今回のマンション評価は、重回帰分析といった統計的手法を用いて推定時価を求めるとの評価方法とされるところ、サンプルとされた取引価額は平成30年分のマンション一室の取引事例とされていて、そうしたサンプル自体が6年の月日を経てすでに陳腐化しているとの印象も抱きます。こうした背景も「納税者の予見可能性の確保」に影を落とす部分です。
 この点については国税庁も理解をしているようで、評価乖離率を求める算式や値については適時に見直しを行うとも表明しています。そのイメージとしては、3年に一度の固定資産税評価額の評価替えに相当するような通達改正が予想されるところであり、今後の定期的な見直しを前提としているがゆえの「個別通達」での発遣と捉えることができるでしょう。2024/01/17 税理士小林俊道事務所