事業承継税制の限界

 法人版事業承継税制の特例措置について、令和6年度税制改正において、特例承継計画の提出期限の2年間の延長措置が手当てされました。延長後は、令和8年3月末までに特例承継計画の提出を済ませた上で、株式の贈与または相続承継と先代社長から後継者社長への交代を令和9年12月末までに完了させることにより、同制度の適用を受けることが可能になります。この注意点としては、株式の承継と社長の交代の期限は延長にならなかったことと、株式の承継までに後継社長は3年間継続して取締役就任の事実が必要ということです。すなわち、後継者になる者は令和6年中に取締役に就任していなければなりません。2年間の延長にあぐらをかいていてはいけないということです。

 ただこの事業承継税制、後継者は事実上先代社長の親族(推定相続人)に絞られる制度のように思うところです。制度の表向きでは親族外承継でも同税制の適用は可能と謳っていますが、例えば先代社長の親族ではない従業員(親族外後継者)が後継社長になり同税制の適用を受けた場合で、株式の承継を先代社長からの贈与により受けた場合、先代社長に相続が発生したことで、それまでの贈与税の納税猶予が相続税の納税猶予に切り替わる訳ですが、その際、株式の受贈者である親族外承継者は、株式を承継しなかった先代経営者の相続人(妻や息子、娘ら)とともに、通常は相続税申告をする必要が出てきます。これら相続人は、他人である後継者に財産開示はしたくないという事情もあり、また株式に関する納税猶予を条件付きでも受けることができる親族外後継者と、株式以外の現預金や不動産等の相続財産について納税猶予の恩恵に授かれない相続人らとの立場や置かれた状況の違いも、両者の不協和音に発展しかねません。このようして、相続人と親族外後継者が一つのテーブルに座って相続税申告に向けた打合せが果たしてきちんとできるのかという、実務上の問題が出て来ます。

 結局これは、全体財産を合算して相続税の総額を算出する必要があるという、現行の相続税の課税方式を採用することの限界を意味しているのではないでしょうか。かつて民主党政権下の税調で審議されその後にお蔵入りになってしまった遺産取得課税方式(財産の取得者ごとに申告できるような制度)への切り替えがないかぎり、解決しない問題がこの事業承継税制には存在します。かといって、親族外承継者が居る事業承継税制の適用である場合にかぎって課税方式を変更するという対案があったとしても、それはかなりハードルが高い内容であると思われます。

 このような法人版事業承継税制の特例措置について、先の税制改正大綱では、令和9年12月末までの適用期限については今後も延長を行わないと明言をしています。そろそろ事業承継税制の特例措置に代わる、あらたな株式評価制度の議論が求められる時期に来ているように思うところです。

2024年5月28日記述