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(18)総額割戻し計算、積上げ計算、いずれを採用するのがよいか

 これまでの消費税法とその実務においては、一部の特例的な取扱いを除いて、その税額計算は、売上税額と仕入税額いずれにおいても「総額割戻し計算」によることとされてきました。
 こうした消費税の税額計算方法について、インボイス施行後においては、あらたに「積上げ計算」なる概念が制度に入ってきました。かかる積上げ計算には「請求書積上げ方式」と「帳簿積上げ方式」とのふたとおりの方法があるとされています(売上税額の計算に関しては請求書積上げ方式のみが認められています)。
 この点、インボイス導入後の実務を見ていますと、スーパーマーケットやコンビニエンスストア等の一部の大規模小売業では、自社に有利となる売上税額の計算方法である「積上げ方式」を採用する動きがみられるようです。そのうえで、売上税額計算にあたって積上げ方式を採用した場合、ルールとして、仕入税額計算は積上げ方式の一択のみとされています。
 では、実際に自社における納税額計算の方法について、いずれの方式を選ぶのが適当でしょうか。この点、納税額に顕著な違いが顕れる一部の大規模小売業を営む事業者を除いて、ほとんどの事業者では、売上税額/仕入税額いずれについても「総額割戻し計算」採用することで良いのではないかと考えます。
 というのは、総額割戻し計算は、①これまでの実務において脈々と実施してきた納税額計算の方法であり、事業者にとってなじみ深いものであること、②積上げ方式による税額計算の採用が大幅に有利になることは、少額の売上を際限なく繰り返し決済する一部の大規模小売業にかぎられる、③仮に売上税額について積上げ計算を採用する場合、多くの場合でレジシステムと会計システムが連動するようなシステム改修が必要になると思われること、等の理由からです。
 この点で、国税庁も含めた巷のインボイス制度の説明では、「売上税額の計算方法は原則として総額割戻し計算である」とし、また「仕入税額の計算方法は原則としてとして積上げ計算である」との記述が一般的です。このような記述を目にした方から、売上税額の計算はこれまでどおり総額割戻し計算を適用することとして、仕入税額の計算方法として引き続き総額割戻し計算を適用したら何かまずいことになるのか、との質問が寄せられることがありました。こうした質問について、売上税額/仕入税額いずれについても、これまでどおりの総額割戻し計算を適用することは、制度の面からみても、実務上の観点からしても(たいていの場合において)差し支えないというのが、私なりの回答になるところです。

2023/12/28税理士小林俊道事務所

(17)インフルエンザの予防接種とインボイス対応

 とある事業所では、全従業員に対して、毎年秋口に近隣クリニックにおいてインフルエンザの予防接種をするよう推奨しています。当月分の従業員立替経費精算の中に、この予防接種代に関するクリニックの領収書(手書きのもの)の提出があったところ、当該領収書にはインボイスに関する記載が皆無です。  

 この点について、インフルエンザの予防接種費用は消費税の課税取引にあたるところ、このままインボイスの交付を受けないと、当該事業者においてはインボイスの8割経過措置の適用による仕入税額控除になります。

 そのうえで、クリニックの多くは社会保険診療(消費税非課税取引)が主な収入源であることからすると、クリニックによってはインボイスの事業者登録を済ませていないことも予想されます。そうであるとすると、インフルエンザの予防接種代についてインボイスの交付依頼をしたところで、その交付が受けられないことも考えられます。

2023/12/28税理士小林俊道事務所

(16)警察のパーキングメーターとインボイス対応

 外出先の少しの用事を済ませる際に便利な警察のパーキングメーターについて、発券機から取り出した領収書にはインボイスの記載が見当たりません。これは警察の違反事件ではないかと息巻いてしまいそうですが、所轄署経由で警視庁に照会をしてみたところ、警察ではパーキングメーターの利用料は「発給手数料」「機械作動手数料」として徴収をしており、消費税法上の行政手数料として運用しているとのことです。

 消費税法上の行政手数料にあたり非課税取引であれば、警察からのインボイスの交付はあり得ず、また民間のコインパーキングとは区別をした経理が求められることとなります。

2023/12/27 税理士小林俊道事務所

(15)郵便切手の購入とインボイス対応

 郵便局やコンビニエンスストア等において切手購入に際して交付を受けた領収書には、登録番号が記載してあっても、適用税率や消費税額に関する記載は皆無であることが通常です。この点、郵便局や郵便切手類販売所の承認を受けている小売店等における郵便切手の購入は、消費税法が定める郵便切手類の譲渡取引に該当します。そもそもの消費税法の非課税取引に該当することから、郵便局等にはインボイスの交付義務はないし、こちら側からインボイスの交付を求めることはできません。

そのうえで、切手を購入したのちに郵便ポストに投函することによって郵便役務の提供を受けたことについては、いわゆる郵便切手特例により、インボイスの保存なくして仕入税額控除が可能です。また、自ら使用する郵便切手類については、継続適用を要件に購入日の属する課税期間の課税仕入れとすることが通達上で認められています。こうしたことから、郵便局等からの郵便切手類の購入取引については、購入した郵便切手を郵便物に貼付して郵送役務の提供を受けるという用途に供する限りにおいては、インボイスの交付を受けないまま仕入税額控除ができることとなります。

 ※郵便切手を貼付した郵便物を郵便局窓口において郵送依頼をする場合は、郵便局より郵便役務の提供の対価としてのインボイスの交付を受けることができます。

2023/12/22 税理士小林俊道事務所

(14)非適格の請求書を受領した場合の対応?

インボイスの施行まであと半年強となりました。事業者の方々の関心は、インボイスの仕組みや登録申請といった制度の入り口の段階から、取引先との確実なインボイスの取り交わしの準備といった実務的なところに入ってきている感想です。ちょうど税理士事務所の繁忙期になるところ、今年はインボイスの対応とそれが重なることは覚悟していましたが、果たしてどのような年度末になるのでしょうか。

さて、インボイスの要式を満たさない請求書や領収書を受領した場合、買い手側はどのような対応をしたら良いでしょうか。この点、現行の区分記載請求書等保存方式で認められていた、受領側での一部の項目の追記は、インボイス制度のもとでは認められなくなります。そうなりますと、仕入税額控除のためには、そのような(非適格な)請求書などを受領した場合は、インボイスの要式を満たした請求書や領収書を改めて発行してもらうよう、相手方に求める必要があります。

ところで、一部の特例が認められる場合を除いて、インボイスをもらっていないにもかかわらず、あるいはインボイスの要式を満たさない請求書や領収書をもとに仕入税額控除をして申告した場合、その申告は過少申告となります。税務調査でそのような指摘がされた場合、果たして8割控除の経過措置を用いた修正申告ができるでしょうか。

この点、8割控除の経過措置は、その経過措置の適用を受けることを明らかにした帳簿の保存が必要とされています。そこで、税務調査において、インボイスの交付を受けていないとの理由で当初申告の仕入税額控除が否認された場合、あらたに仕入税額の8割相当額を控除するとした修正申告は認められないものと考えます。修正申告にあたって帳簿をさかのぼって書き換えることはできませんから、帳簿記載が要件となる8割控除の経過措置の適用は認められない(あと出しの適用はできない)との解釈が相当だと思います。

そこで、インボイス施行から最初の3年間は8割控除の経過措置を一種の安全弁のような存在と考えるのは、いささか楽観的なシナリオにも思えます。せっかくの準備期間が設けられているところ、要式を満たしたインボイスの保存が制度開始の段階から重要であるとの認識で、取引先との折衝も含めた準備にあたっていただくべきところだと思います。

2023/01/16、2023/03/31内容を改訂しました

(13)自社の「適格請求書発行事業者」への登録に向けた手順は?

Q 自社の「適格請求書発行事業者」への登録に向けた手順は?

A 原則として令和5年3月末までの間に登録申請をする

適格請求書発行事業者の登録申請は、所轄の税務署に対して行います。そのうえで、あくまでも登録の「申請」ではありますが、過去2年以内に消費税法違反で罰金以上の刑に課せられていなければ、基本的に登録認可がなされます。

インボイス制度がスタートする令和5年10月1日から適格請求書等を発行したいのであれば、令和3年10月1日から令和5年3月31日までの間に、登録申請書を提出しなければなりません。ただし、令和5年度税制改正大綱において、「期間内に申請できなかった困難な事情」がなくても、令和5年9月30日までに登録申請をすれば、同年10月1日より適格請求書発行事業者として登録されることとなりました。
登録が認可されると、適格請求書発行事業者には、税務署長より書面もしくはe-Taxの通知により登録番号が通知、付与されます。その登録番号が請求書に記載されていることが、仕入税額控除の適用を受けられる「適格請求書等」とされるための一要素となります。
登録番号は、法人である場合には基本的に「法人番号の前にTがついたもの」になります。また、個人事業主である場合には、あらたに事業者としての13桁の番号(番号法のマイナンバーとは異なるもの)が付番されます。そのうえで、適格請求書発行事業者として登録を受けた事業者は「適格請求書発行事業者登録簿」に搭載され、国税庁ホームページにおいて公表されることとなります。

2023/01/13 税理士小林俊道事務所

(12)免税事業者が、免税事業者で居続ける場合にもたらされる影響をもっとしりたい。

Q 免税事業者が、免税事業者で居続ける場合にもたらされる影響をもっとしりたい。

A 取引相手が事業者である場合、取引対価の減額(消費税相当額の負担を軽減するとの趣旨)を含めた取引条件の変更を求められることが想定され、これを拒むと取引の打切を通告される可能性もあります。

免税事業者の継続を決めた場合には、事業者である顧客から、インボイス制度の開始後は取引対価の減額調整をしてほしいといった、取引条件の変更を求められることが想定できます。こうした求めに応じた場合、相手方は仕入税額控除を受けることができない一方で、取引対価の減額が行われる訳ですから、言われているような“インボイス制度の開始後に免税事業者が取引から排除される”との懸念は、現実のものとはなりにくくなるように思えます。ただし免税事業者側では、取引対価が減額となることによる売上減およびキャッシュフロー上の影響を受けます。“痛し痒し”とは、まさにこのような状況のことをいうのかもしれないとの感想です。
また、もしも免税事業者で居続けることを決めた上で、取引の相手方(買い手側)事業者から寄せられた取引条件の変更(取引対価の減額)を拒んだ場合には、相手方から取引の打切を通告される事態も予想されるところです。
このような検証をしてゆくにつれ、今般のインボイス制度の導入は、単に税制のみならず、企業間の取引自体にも影響を及ぼす大きな改正であることがおわかりになられるかと思います。
ちなみに、上記で述べたことは、インボイスの交付を求めてくるような、事業者を相手にして商品や役務の提供を行っている場合にあてはまるものと考えます。そこで、もっぱら消費者を相手に商品や役務の提供を行う免税事業者においては、免税事業者で居続ける(適格請求書発行事業者の登録を受けない)ことについて及ぼされる、特段の影響はないものと思われます。

2022/11/26 税理士小林俊道事務所

(11)免税事業者が免税事業者で居続ける場合にもたらされる影響は?

Q では、免税事業者が免税事業者で居続ける場合にもたらされる影響を教えてください。

A 取引相手が事業者である場合、取引対価の減額(消費税相当額の負担を軽減するとの趣旨)を含めた取引条件の変更を求められることが想定され、これを拒むと取引の打切を通告される可能性もあります。

免税事業者の継続を決めた場合には、事業者である顧客から、インボイス制度の開始後は取引対価の減額調整をしてほしいといった、取引条件の変更を求められることが想定できます(上記「事例検討2」の②を参照)。こうした求めに応じた場合、相手方は仕入税額控除を受けることができない一方で、取引対価の減額が行われる訳ですから、言われているような“インボイス制度の開始後に免税事業者が取引から排除される”との懸念は、現実のものとはなりにくくなるように思えます。ただし免税事業者側では、取引対価が減額となることによる売上減およびキャッシュフロー上の影響を受けます。“痛し痒し”とは、まさにこのような状況のことをいうのかもしれないとの感想です。
また、もしも免税事業者で居続けることを決めた上で、取引の相手方(買い手側)事業者から寄せられた取引条件の変更(取引対価の減額)を拒んだ場合には、相手方から取引の打切を通告される事態も予想されるところです(上記「事例検討2」の③の帰結を参照)。
このような検証をしてゆくにつれ、今般のインボイス制度の導入は、単なる税制に留まるものではなく企業間の取引自体にも影響を及ぼす、きわめて大きな改正であることがおわかりになられるかと思います。
ちなみに上記で述べたことは、インボイスの交付を求めてくるような、事業者を相手にして商品や役務の提供を行っている場合にあてはまるものと考えます。そこで、先述のQ&Aにおける“英会話教室①”のような、もっぱら消費者を相手に商品や役務の提供を行う免税事業者においては、免税事業者で居続ける(適格請求書発行事業者の登録を受けない)ことについて及ぼされる、特段の影響はないものと思われます。

2022/07/28 税理士小林俊道事務所

(10)適格請求書発行事業者の登録した場合の影響は?

Q 熟考のうえ、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録を受けることとした場合、どのような影響が考えられるでしょうか?

A 取引先を失う懸念はひとまず回避できますが、消費税の申告と納税による負担が増えます。

インボイス制度の導入以後、これまで免税事業者であった事業者が顧客の求めに応じて適格請求書等を交付するためには、適格請求書発行事業者の登録を受ける必要があり、適格請求書発行事業者となる以上、消費税の課税事業者として申告納税が必要になります(「8.インボイス制度の開始にあたって、免税事業者が検討することはありますか?」の「事例検討2」の①の帰結となったケースを参照)。
そのため、免税事業者においては、自社が真に適格請求書発行事業者の登録を受ける必要があるかどうかも含めて、直前のQ&Aを参照するなどして熟考のうえ対応をしていただきたいと思います。

2022/4/18 税理士小林俊道事務所

(9)適格請求書発行事業者の登録が不要なケース

Q 適格請求書発行事業者の登録が不要なケースがあるとすれば、どのようなケースでしょうか?

A もっぱら消費者を相手に販売・役務提供を行う事業者は、適格請求書発行事業者の登録を受ける必要はないかもしれません。自社の業種、業態、顧客の属性を踏まえた検討をしてみられると良いでしょう。

1)適格請求書発行事業者の登録を受けることは、あくまでも事業者の任意
インボイス制度の開始にあたって、前述の「事例検討2」の①のケースのように、“現実的な対応”のもと、相当数の免税事業者も含めた多くの事業者が適格請求書発行事業者の登録申請を行うであろうとされています。
もっとも、その登録を受けるかどうかは、あくまでも各事業者の判断に委ねられています。そこで、取引の相手方からインボイス(適格請求書等)の交付を求められない業態であれば「課税事業者であっても適格請求書発行事業者の登録は受けない」ですとか、「免税事業者が課税事業者になるまでして、適格請求書発行事業者の登録を受ける必要はない」との選択は、充分にあり得ます。
理解を深めていただくために以下、英会話教室を営む事業者の例を挙げつつ、適格請求書発行事業者の登録を受ける、受けないの判断の分岐点を探ってゆきたいと思います。
2)適格請求書発行事業者の登録が不要と思われるケース、とある英会話教室の一例①
例えば、事業者における顧客が消費者のみの場合、消費者はインボイスの交付を求めてこないため(消費者は消費税の負担はするが納税義務者ではないため、仕入税額控除の要件を満たすためのインボイスの受領は不要)、消費税の課税事業者であるかどうかにかかわらず、適格請求書発行事業者の登録を受けなくてもよいとの選択肢も検討に値するでしょう。
具体的には、例えば英会話教室を主宰する事業者の例を述べると、もっぱら個人の受講生に特化した「ビジネス英会話教室」や「大学入試対策英語講座」を開催している場合などが、それに該当すると思われます。
3)適格請求書発行事業者の登録が必要と思われるケース、別の英会話教室の一例②
もっとも、同じ英会話教室の業種であっても、たとえば顧客企業から選抜・派遣された従業員(海外駐在予定者)やその家族に対して英会話授業を行っているような場合、受講料を負担する顧客企業(消費税の課税事業者であることが前提)からは、毎月の受講料に係る消費税相当額について仕入税額控除の対象とするために、インボイスの交付を求めてくるでしょう。このように、顧客がインボイスの発行を求めてくることが想定される場合には、その事業者が免税事業者であるとしても、適格請求書発行事業者の登録を受ける必要があると考えるべきでしょう。
このように、等しく英会話教室であったとしても、「どのような顧客を相手にしているか」、「顧客がインボイスの交付を求めてくるかどうか」といった分析の結果次第で、インボイス制度への対応が分かれることが考えられます。

2022/4/4 税理士小林俊道事務所